夢を見る・・・
それは遥かな原初の夢・・・
全てのきっかけとなった過去の出来事・・・
遥か彼方の過去・・・それこそ『七夜』と言う一族が生まれる前・・・後に七夜の森と呼ばれ、その地において七夜という一族が完成される前・・・更には西方において『朱い月』がキシュア・ゼルレッチに打ち滅ばされるより更に以前・・・にまでこの長き長き話の幕は求められる。
その森には超能力を色濃く代伝えに残す一族がひっそりと生きてきた。
その一族の名は既に歴史の波に呑まれ、風化し朽ち果てているが、その超能力は絶大なる力を宿し、いつしか人に乞われ妖(あやかし)や魔を討つ一族として討たれる側からも更には乞い願う側からすらも恐れられ歴史の闇、人々の暮らしの闇、ひいてはこの国の闇にひっそりと生き続けるようになった。
そこの頭目が子を授かった。
この時第一の幕が上がった。
その赤子は双子だった。
それを見た時頭目は驚愕し嘆いた。
それは生まれる直前に受けた祈祷師の予言が原因だった。
『これよりお主が授かる赤子が一人であれば一族は太平を迎えよう。じゃが双子であった時片方を殺めよ・・・さもなくばおぞましき災いが降り注ぐ』
三日三晩頭目は悩み苦しんだ。
そして・・・頭目は決断した。
たとえ災いが降り注ごうとも決して我が子を殺めないと・・・
それは父親としては正しき決断だった。
しかし、それは未来に約束された苦難と悲しき歴史の開幕を告げる決断でもあった・・・
時は過ぎ・・・双子の少年は健やかに育った。
兄は『七夜』、弟は『凶夜』と名を授かった。
『凶夜』は頭目の息子に相応しい力を数多く持ち幼き頃から妖を魔を滅ぼしていった。
その為であろうか、その性格は猪突猛進で自身の力を過信する傾向が多々あった。
しかし、そんな弟の補佐に当たったのは兄の『七夜』だった。
兄はその温厚で思慮深い性格で弟を時には戒め時には支え『凶夜』も兄の進言や注意は素直に聞いた。
最初『七夜』には力は持ち合わせていないと思われていた。
しかし、彼は力は持ち合わせていた。
三つだけであったが強大すぎる力を・・・
それは『万物の死を見る目』と『世界の消滅を支配する目』、そして『冥界よりの獄炎』だった。
そう・・・七夜志貴が保有している『直死の魔眼』と『極死』・・・そして七夜虎影の能力を彼は生まれながらにしてそれを完全に制御し使いこなしていた。
その力を実際に知るのは彼の両親と弟のみだった。
父は殊更『七夜』の力を隠匿した。
特に『万物の死を見る目』と『世界の消滅を支配する目』に関しては親類にも知らせなかった。
何故なら、その力はいくら異端の力を持つ一族としても異常であった。
誰一人も死を・・・ましてや存在の消滅を支配などできる筈が無いのだから。
「最も重要な時以外決して力を使う事無い様に」
父が『七夜』に課した唯一の掟だった。
それ故『七夜』は無闇にその力を使う事は無かった。
元々無益な争いを好まない性格ゆえにそれも至極当然なように周囲も見ていた。
しかし、だからと言って彼を力不足と見るものは誰もいなかった事もまた事実である。
彼は弟ほど強大な力は持ち合わせていなかったがそれを技量で補った。
実際自らの身体能力を極限まで高めたその戦闘方は今までの一族に無かったもので、これが後の『閃の七技』・『七夜死奥義』の礎となっていく。
やがて彼はもう一つの能力『冥界よりの獄炎』を応用し『夫婦の御神石』と呼ばれた二つの鉱石を加工し一振りの太刀を創り上げた。
彼はそれを『天竜』と名付けた。
その太刀より迸る力は弟の力に匹敵する量があった。
彼は力を使う事無く『天竜』と己が技量で戦い生き抜いてきた。
そして時は更に過ぎる・・・
朝日の光を浴びて俺は眼を覚ます。
「志貴起きたか?」
「ああ、鳳明さんおはようございます。今は」
「お前達の時間で朝の七時だ」
「もうそんな時間ですか・・・あれ翡翠は??」
「様子を見てきたが一人を除いて全員眠りに就いたままだ。おまけにうなされている」
「やはり夢に」
言うまでも無い。
鳳明さんは静かに肯く。
「悪夢で説明は」
「まず無理だろう。紫影も言っていただろう?あれを全て覚えているとな」
どちらにしろ、今俺がいる事は皆にとってマイナスにしかならないだろう。
ならばやれる事を全て行おう。
「じゃあ出ますか」
「志貴良いのか?あとで怒られるぞ」
「構いません。むしろそこまで回復して欲しいです」
「そうか・・・」
「それに時間も持ったいないですから」
「それもそうだな。では急いだ方が良いだろう」
「ええ」
おれは早速起きると服を着替えてから無事な一人・・・レンに朝食代わりのミルクとケーキを差し出してから色々な準備を始める。
(・・・何処に行くの?)
そんな準備をしている俺に人型になったレンが思念で尋ねる。
「ああ、遺産の戦いも終わったから借りている物を返してこないといけないんだ」
俺はそう答える。
(何時帰って来るの?)
「時間はかからないよ。二・三日で帰って来る。レン・・・みんなのサポートお願いな」
三十分後、居間と自室に同じ内容の書置き・・・『少し出ます。数日程かかると思います』と書き残して俺は屋敷を後とした。
「まず何処に行く?」
「そうですね・・・まずは爺さんの所に行くとしましょう。身体の調子を整えないといけませんし、その後、鳳明さんをお返ししましょう・・・鳳明さんの家族に」
駅に向かうに連れて何かわからんが雑踏が大きくなっている。
見ると、テレビレポーターと思われる年若い女性がカメラに向けてしきりに絶叫している。
その先には昨夜までは『シュライン』やらビルが立ち並んでいた場所。
しかし、今ではその殆どが倒壊し、戦場の如き有様だ。
「ご覧ください!!一夜の内に中心部のビル街はその殆どが倒壊しさらに『シュライン』は・・・」
昨夜の戦闘の跡だな・・・
あの時は後先考えず殺しまくったからな・・・
まあ死者怪我人がいないのが幸いしたな。
紫影も俺やアルクェイド達以外を巻き込む気は無かったようだ。
と言うよりも他に気を配る余裕が無いから退場願ったと言うべきか・・・
(どうする?)
そんな俺に鳳明さんの思念が届く。
(申し訳ありませんが・・・無視しましょう)
「おお、坊主よく来たな」
「また頼むよ」
「判ったさっさと脱がんか」
時南医院に到着した俺は早速爺さんの整体を受ける。
相変わらず拷問に等しい整体を受ける事十数分、終わると
「坊主」
「なんだい?爺さん」
「お主何かあったか」
「なんだよやぶから棒に」
「何もなければそれで良い。ただお主の気配が黄理と最期に会った時と何故かダブっての」
「何を急にぬかしている。そんな訳ないだろ」
「それならば良いがな」
「それと爺さん」
「どうした?」
「これ用意してくれないか??」
そう言って俺はあるメモを渡す。
「!!!お主・・・」
「頼む。どうしても必要だから」
「・・・判った。三・四日で用意させる」
「よろしくな・・・なあ、爺さん」
俺は立ち去る前なぜか口を開いた。
「どうした」
「人生ってやつは・・・いや、なんでもない。じゃあなまた来る」
俺はそれ以上言う事無くその場を後にした。
(次は?)
(ドイツでしたよね?鳳明さんの家族のいるのは?)
(志貴??)
(遺産の戦いは終わりました。鳳明さんをご家族に返さないと)
(しかし、それでは)
(俺なら大丈夫。それに鳳明さんにこれ以上負担の肩代わりは出来ません)
(気付いていたか・・・)
(当然でしょう。『極死』を支えられるのは良くも悪くも俺しかいないのですから・・・)
『極死』の制御は『直死』の比では無い。
俺以外の者では命はおろか、魂すらすり減らす。
現に一回だけ、それもごくごく一部の負担だけを受け持った鳳明さんの魂は異常に疲弊している。
これ以上負担の肩代わりなど出来る訳が無い。
(だから・・・俺は大丈夫です)
(志貴すまない)